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ラフカディオ・ハーンと天神さん
松江の木玩は全国屈指の郷土玩具として知られていたが、すでに廃絶して久しい。「お宮」はその松江の木製玩具の一種である。
戦後、復活と廃絶を繰り返していたが、残念ながら未だ復活を見ていない。また、松江にはもう一つ全国屈指といわれた「姉様人形」がある。これは今も作られているが、その「姉様」と「お宮」は、明治年間松江に在住した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)によってこよなく愛され、いつもその机上に置かれていたことで特に知られている。
写真の「お宮」は、昭和35年の作。朱赤に塗り込められた宮祠に白と黒で簡単な装飾を施したきわめて素朴な玩具である。中央の扉が左右に開閉できるようになっている。
子供たちは小さな天神さんを扉の中に入れて遊んだ。「お宮」そのものが天神さんであったという最も端的な例であろう。女の子の姉さま遊び、男の子の天神遊び、いずれもせいぜい明治期までで、あとは量産される全国共通の近代玩具に押しやられて次々と廃絶の運命を辿っていった。今となってはほのかな郷愁の世界でしかない。
それにしてもこの吸い込まれるような朱赤の美しいこと、日常座右に愛玩したという八雲の感性に改めて深い敬意を捧げたい。
(木村泰夫著「天神さん人形」より)